きみはポラリス/三浦しをん

結構前に読み終えたのだけれど、そのまますぐ友達に貸してしまって、すっかり忘れておりました。三浦しをんの短編集。恋愛モノばかりの。…恋愛モノばかりと言っても、普通のあり、不倫ぽいのあり、同性愛あり、あとええと人間とペットなんてのもあり。題材はベタなのもあるけれど、三浦しをんの描く人物は(犬も)、どこか捻くれていて、少しずれたりもしていて、それがベタだけどベタベタしない(なんだそれは)理由かと思う。
…と、まだ貸しっぱなしで手元にないので、戻ってきたら書き足すかも。

きみはポラリス (新潮文庫)

きみはポラリス (新潮文庫)

パーネ・アモーレ イタリア語通訳奮闘記/田丸公美子

米原万理さんつながりで、親友であったイタリア語通訳の田丸公美子さんのエッセイ。米原さんに引き続きというか、この方の文章もとても面白い。小気味よい。イタリアならでは、イタリア人ならではのエピソード満載で、米原さんの描くロシア像のように、田丸さんの描くイタリア&イタリア人の鮮やかさと来たら。
ザコンが多かったり、女好きだったりのエピソードをその背景まで説明してくれたり。高級ブランドのデザイナーのほか、知っている建築家の名前もたくさん出てくる。イタリアはデザイン大国なんだな。傲慢な建築家Vと匿名で出てくるのは誰なのだろうと思ったり。エットレ・ソットサス織部賞をもらったときのスピーチの訳はほんとに素敵。ほか、ご自分の通訳としての道のりなども読みごたえあります。
通訳に必要なのは、当たり前だけれど「日本語能力」を含む語学力であるのだなと思う。イタリア人が比喩で用いる聖書の表現を、その知識なしに訳すことは出来ないし、ある言語でのシャレやことわざをとっさに言い換えるのだって、語彙があってこそ。そんな一線の通訳の方のかく文章だから、面白くないわけないのかなと。

パーネ・アモーレ―イタリア語通訳奮闘記 (文春文庫)

パーネ・アモーレ―イタリア語通訳奮闘記 (文春文庫)

永遠の0ゼロ/百田尚樹

予備知識なく着手。現代に生きるワカモノである主人公とその姉が、戦争で亡くなった祖父について調べていく話。姉は駆け出しのライターで、その仕事にするつもりで弟を使いつつ戦友会を通して連絡のとれた人にインタビューを繰り返し、祖父・宮部久蔵の人となりと明らかにして行く。合間合間に地の文はあるけれど、実質ほぼ聞き語り形式で、戦時中の祖父を知る老人たちの話によって紡がれて行く。
結論から言うと、面白かった。あの手この手で、あの戦争の、いろんな側面が描かれ説明され、宮部久蔵という人物が語られる。現在こういう意見がある、こう言われている、というのを引用しつつ、小説の中での「事実」はしっくりくるものだった。私は歴史の勉強も研究もしてきているのに、日本の現代史、戦争について、正直言って詳しくない。ラバウルガダルカナルサイパン…地名はもちろんわかるけれど、戦地としてのその知識はとても薄いし、「ゼロ」戦の呼称も、皇紀2600年の「0」に由来することすら知らなかった。この本は、そんな人間にも問答無用に詳細なリポートをぶつけてきて、おなかいっぱいにはなるのだけど、畳み掛けかた?が上手で、読まされた。知らなかったことも随分知った。どこまで事実なのかは、自分で確かめなくてはいけないけれど。最後の展開も、そこまでの布石があってこそで、読まされた。こんな厚い文庫(575ページ!)一気読みしたの久しぶりだ。
…その上で、小説としては、そこまではまれなかった。帯には号泣必至、みたいにあって、涙腺弱い私は絶対だめだろうと思っていたのに泣かずに読破。面白さは、ミステリーを読んでいる面白さかも。静かな感動。すべてのご老人がわかりやすく順序立てて標準語で「お話し」してくださるのも、まあ読みやすくていいのだけど、入り込めない要因か。主人公も姉も、新聞記者恋人も、人物像がちょっと薄っぺらいのだよな… というの差し引いても、面白かったです。
自分も祖父母にもっと話を聞いておけばよかったと、静かに思う。

永遠の0 (ゼロ)

永遠の0 (ゼロ)

がんばりません/佐野洋子

本屋寄ったら佐野さんの追悼フェアみたいなのをやっていたので、エッセイを一冊購入。相変わらずの佐野さんのあっさり赤裸々、素のまんまな文章ににやにやしながら読破。前に書いたけれど、高校生の頃読んで、すっかり、なんというか、気持ちの上で「意気投合」したのでしたよ。今回のこのエッセイも、うんうん深く頷きながらおしゃべりを聞いていた気分でした。私には佐野さんのような、これ以上ないくらいの貧乏生活のような経験もないし、細腕一本で生計支えるわけでもないし、年代だって全然違うし…なのはわかってるけども、何か、しっくりくるの。男性の好みも、きっとけっこー似てる。

書き出したメモから引用いくつか。

誰もがそれぞれの疲れを持っていた

平泳ぎをするとどんどんバックをしてしまう友達が居る。

閑つぶしであるから、活字はバック・グラウンド・ミュージックと同じで、教養にも知性にもなってゆかない。娯楽であるから、その時がもてばよいのである。

「『嫌われて長生きしたくはなけれども可愛がられて死ぬよりはまし』っていうの知ってる?」

印象に残ったのは、葬式が好きという話と、オートバイは男の乗り物であるという話。解説はおすぎ!

がんばりません (新潮文庫)

がんばりません (新潮文庫)

1984年/ジョージ・オーウェル 訳:新庄哲夫

村上春樹を一気読みしたときに、話題になっていたジョージ・オーウェルの「1984年」。タイトルは知っていたけれど未読だったので、手を出してみました。実は読むのにかなり間空けて3ヶ月くらいかけてしまったあたり、最近は物忘れだけでなくて、本を読む能力も落ちてる気がひしひしと。

大きな戦争後の世界。人々は独裁政権の監視下におかれ(「テレスクリーン」で実際に見張られている)、反体制的な態度は即刻「思想警察」による逮捕に繋がる。ウィンストン・スミスなる中年男性が主人公。冴えない、くたびれた人物として描かれるのだけれど、そんな小市民な彼だからこその、普通の感情や欲望が、赤裸々。三部構成で、第一部では小説の世界に起きている状況…三大大国による拮抗した世界情勢、徹底的な監視と思想統制、慢性的な物資の不足、プロレと呼ばれる労働者階級などなどについて語られる。起承転結の起承まで。第二部は、承から転、か。ジューリアという若い女性や秘密の隠れ家、敵か味方かわからない人物などが登場する。第三部で、結。イヤーな持っていき方と終わり方なんだけれど、読まされる。付録もあります。小説の世界で使用が促進されている「新語法」についての、解説。こういうのも含め、もちろん小説で、フィクションなんだけれど、これでもかというくらい緻密に詰めてくるので、がっつりおなかにたまる感じです。
予備知識なく読み始めていたのですが、途中からネットで情報を得て、書かれた背景にまで思いが及んで初めてわかることもあったかも。今見返したら、Wikipediaにはあらすじから物語内の設定まで、全部書いてあるな…。

1984年 (ハヤカワ文庫 NV 8)

1984年 (ハヤカワ文庫 NV 8)

村上春樹きっかけで読んで、それでどう思ったというのは、ちょっとあるけれど、特にない。なんだそれ。いや、ここでうまく説明出来るような何かはない、かな。ぼんやりした像は見えたかも。

ガセネッタ&シモネッタ/米原万里

実家から持ってきた一冊。
itoさんが書いてらしたの見て、あー、米原さん読み返したいなと思い。読んだ記憶はあったのですがやっぱり面白かった。
ロシア語通訳の米原万里さんが描く、通訳とはなんたるか、語学とは言葉とは人間とは…とさまざまな絵模様。日本語の謙遜表現の難しさと、欧米人の身内称賛とをどう繋げて行くのかだったり、もっと単純には、日本語の駄洒落をとっさにどう訳すかだったりの通訳としての苦労と笑い話と、ロシア語通訳だからこその体験や考えなども。
いろいろなところでの短文を集めたものなので、テーマも様々。ツルゲーネフドストエフスキートルストイなどを「容姿」で分析する話に笑ったり。ユーゴスラビアについて詳しい書籍を片っ端から読んで教えてくれる話などはちょっとメモとりました。読もう。
あと対談もふたつ収録。…これ、個人的きわまりない感想ですが、米原さんは、ひとつめの対談相手のことはあまり好きではない(仲良くはない)感じがする…。対談の内容はとても面白いのですが。私が、この対談相手の反応や話し方にちょっとひっかかるものを感じただけであるとも言える。「話してることを文章に書き起こしている」以上、書き方次第で嫌みにも逆にも読めてるのだろうとも思うけど。
タイトルの「ガセネッタ&シモネッタ」は、イタリア語通訳の田丸公美子さんに「献上」した「シモネッタ・ドッジ」とスペイン語通訳の横田佐知子さんにつけた?芸名「ガセネッタ・ダジャーレ」から来てるそうで。田丸公美子さんのエッセイも面白そうなので今度チェックします。

ガセネッタ&(と)シモネッタ (文春文庫)

ガセネッタ&(と)シモネッタ (文春文庫)

九段坂下クロニクル/一色登希彦、元町夏央、朱戸アオ、大瑛ユキオ

漫画とかエッセイとか、軽いのばかり続いている…。読書量減っています。
これも漫画。同僚さんが、住宅がテーマの連載の仕事をしていて、こちらの専門についていろいろ聞かれたのでお教えしていたら、そうか、これ知っていますか?と貸していただきました。九段坂下にある、九段下ビル・旧今川小路共同建築という建物をテーマとした、4人の漫画家によるオムニバス形式の一冊です。現在に近い時代の九段下ビルだったり、建設された昭和2年当初が舞台だったり、の4編。
一番、漫画として上手だな、と思ったのは元町夏央「ごはんの匂い、帰り道」。竣工時が舞台。朱戸アオ「此処へ」は戦時中のこと。話は面白いけれど、画力が追いついていない感じ。現在が舞台の大瑛ユキオ「ガール・ミーツ・ボーイズ」はうーん、まあ少年誌に載ってそうだな、と。。一色登希彦「スクリュードライブ-らせんですすむ-」は、何やら気負っていて、この建築に思い入れもありそうなのだけど、何が言いたいのやら、盛り込みすぎという感想。
わざわざ個別に感想書いてしまった。なんだかんだ書いてますが、こちらも思い入れのある建物なので、いろんな画で建物が描写されてるのを見るのは、何やら嬉しかったです。買うかも。解説を植田実さんが書いてるのがスゴイよ。

九段坂下クロニクル

九段坂下クロニクル