永遠の0ゼロ/百田尚樹

予備知識なく着手。現代に生きるワカモノである主人公とその姉が、戦争で亡くなった祖父について調べていく話。姉は駆け出しのライターで、その仕事にするつもりで弟を使いつつ戦友会を通して連絡のとれた人にインタビューを繰り返し、祖父・宮部久蔵の人となりと明らかにして行く。合間合間に地の文はあるけれど、実質ほぼ聞き語り形式で、戦時中の祖父を知る老人たちの話によって紡がれて行く。
結論から言うと、面白かった。あの手この手で、あの戦争の、いろんな側面が描かれ説明され、宮部久蔵という人物が語られる。現在こういう意見がある、こう言われている、というのを引用しつつ、小説の中での「事実」はしっくりくるものだった。私は歴史の勉強も研究もしてきているのに、日本の現代史、戦争について、正直言って詳しくない。ラバウルガダルカナルサイパン…地名はもちろんわかるけれど、戦地としてのその知識はとても薄いし、「ゼロ」戦の呼称も、皇紀2600年の「0」に由来することすら知らなかった。この本は、そんな人間にも問答無用に詳細なリポートをぶつけてきて、おなかいっぱいにはなるのだけど、畳み掛けかた?が上手で、読まされた。知らなかったことも随分知った。どこまで事実なのかは、自分で確かめなくてはいけないけれど。最後の展開も、そこまでの布石があってこそで、読まされた。こんな厚い文庫(575ページ!)一気読みしたの久しぶりだ。
…その上で、小説としては、そこまではまれなかった。帯には号泣必至、みたいにあって、涙腺弱い私は絶対だめだろうと思っていたのに泣かずに読破。面白さは、ミステリーを読んでいる面白さかも。静かな感動。すべてのご老人がわかりやすく順序立てて標準語で「お話し」してくださるのも、まあ読みやすくていいのだけど、入り込めない要因か。主人公も姉も、新聞記者恋人も、人物像がちょっと薄っぺらいのだよな… というの差し引いても、面白かったです。
自分も祖父母にもっと話を聞いておけばよかったと、静かに思う。

永遠の0 (ゼロ)

永遠の0 (ゼロ)