緋色の記憶/トマス・H・クック 訳 鴻巣友季子

緋色の記憶 (文春文庫)
訳者あとがきにあった「雪崩を精緻なスローモーションで再現するような」(とアメリカで評されているというくだり)、おお、言い得て妙!そういう小説でした。ミステリ…と括っていいのかな?物語は、過去の一点に向けて回想をめぐらして収束していく形式。かなりゆっくりしたテンポでしか話が進まないので、ちょっといらつくのだけれど、読み終えた今は、それすら計算か、と。純文学的要素が強いのだな、とだいぶ読み進んで、もうこれはこうなってこうなって終わりでしょ、と思ったところからもう少し深くて驚かされた。
舞台は一昔前、アメリカはニューイングランド地方、チャタムという小さな町。町の私立男子校の校長の息子である主人公ヘンリーが語り部となって、新任の美しい女性教師にまつわる事件を思い出す。黒い池の不吉な描写や閉鎖的な町の空気などの英米純文学的・ちょっと暗い冗長さが大丈夫なら、更に最後にヤラレタ、と思わされる良書だと思う。訳もイメージを損なわない。