誠実な詐欺師/トーベ・ヤンソン 冨原眞弓訳

ムーミンで有名なヤンソンさんの1冊。ムーミン谷シリーズ以外では2冊目か。北国の小さな村で暮らす、カトリとマッツの姉弟。カトリはかなり計算高く、損得勘定と騙す騙されることに敏感なひととして描かれる。カトリなりの「筋」がきちんとあり、ぶれないし、その芯のところを信じているので強い感じ。大きな黒い犬をいつも連れている。対して、情に脆く普遍的な女性像として描かれる絵本作家…じゃないか、挿画家のアンナ・アエメリン。
雪深くて閉鎖的な村の描写。おそらく、食料品店と雑貨屋を兼ねた店が1軒だけ。車も村に1台しかなく。その車で街から物資や郵便を運ぶ。村ではボートを作ったり、女性達が手芸をしたりして生計を立てている。冬は暗くて、すべてが雪の下で、海も湖も分厚く凍る。そんな寒々とした土地での物語というだけで、すべてがひんやりと硬質な感じ。
カトリは、冷ややかなほど理性的だけれど、弟を愛している。そして全て計算ずくでものごとを運んで行くのだけれど、どこかでうまく行かなくなる。もどかしさ。焦り。淡々とした描写。ちょっと戯曲風というか、突き放した描き方がしっくり来る。静かな1冊。

誠実な詐欺師 (ちくま文庫)

誠実な詐欺師 (ちくま文庫)