蠅の王/ウィリアム・ゴールディング 訳 平井正穂

蠅の王 (新潮文庫)
十五少年漂流記」よりコレだ、という話しをいつかどこかで聞いていた。1968年集英社の世界文学全集に収められた小説。位置づけがわかっていなかったので、検索をかけてみると、世界的には「蠅の王」は「十五少年漂流記」よりも「珊瑚島」「燕号とアマゾン号」などの海洋小説(?)と語られるべきもののようだ。けれど、残念ながら後二つは未読であり、日本で多く読まれているのはやっぱり「十五少年漂流記」であろうな、と思うのでそういう感想です。
十五少年漂流記」では、15人の子供たちは秩序を保って生活を送る。諍いも小競り合いもあるけれど、踏みとどまり、救出を信じ、そして「たまたま現れた」大人に、きちんと導き守ってもらえる。それはまさしく原題の「二年間の休暇」が表すとおりのひとつの経験なのかもしれない。小学生のときに読んで、その冒険に、発見に、そりゃどきどきして、そしてリーダー格であるブリアンに憧れたものでしたよ。今でも、大好きな小説のひとつだ。
そんな体験を持って、いまこの歳になって読んだ「蠅の王」。設定はとても似通っている。飛行機の事故によって島にたどり着いた少年たちは、かなり幼い者が多く、総勢何名なのかもよくわからない。年長のラーフや、ちょっと鼻につく秀才ピギーが導くかに思えたここでの生活は、たぶん、母国ではちょっと乱暴者で元気なガキ大将であったようなジャックやロジャーらとの対立によってだんだんぐらついていく。秩序が、崩れる。外れたレールから戻れなくなる。文明から切り離された世界で、子供が集団で理性を保ち続けられる理屈なんて、なかったのだと。後半、ものすごいスピードで、人間の中に潜む醜悪な何かが島を飲み込んでいく。
少年たちの冒険小説というジャンルなのだろうか。子供であるからこそ、歯止めがきかない様が壮観。はっきり言ってしまえば、恐ろしい。子供の頃読んだのは「十五少年漂流記」で正解だったと、思う。でも、そうだな、10代後半くらいで「蠅の王」も読んでみたら、よかったかも。