海のふた/よしもとばなな

海のふた (中公文庫)
読売新聞で連載していた話。連載時はとびとびにしか読んでいなかったけれど、一時期鼻について苦手だったスピリチュアルな空気はなさそうだったので、手に取った。
美大を出て、西伊豆の故郷に戻って、かき氷屋を開く私:「まり」が主人公。ある理由で、母の友人の娘である「はじめちゃん」と過ごすことになるひと夏のものがたり。大きな事件が起こるわけではない。かき氷屋を始めようと思ったきっかけである沖縄での思い出や、寂れた観光地であるふるさとの街の自然やら空気や、懐かしい友人との再会やなんかの中に、「はじめちゃん」…大切なおばあちゃんを亡くし、半身にひどいやけどの痕を持った女の子…が加わる。優しくて、まっすぐな人がいろいろと出てくる。
何だか懐かしい感じがした。ストーリー自体もそういう雰囲気なのだけど、なんというか、よしもとばななを読みまくっていた高校生くらいの頃の自分もよみがえる感じだった。
名嘉睦念さんという方のきれいな版画と相俟って、かわいた日本の海の空気が流れてくる。