空飛ぶ馬/北村薫
落語家円紫さんと女子大生の「私」が、遭遇する不思議な出来事・謎を推理して解き明かす、という形式の短編集。今これを書き始めて、はっ、と気付いて慌ててページをめくり直したのだけれど、この女子大生、名前がないや。大学教授との会話、円紫さんとの会話、友人との、親との会話で、一度も名前を呼ばれてない。これは明らかに意図的なんだろうな。面白い。「私」の一人称で話は進む。
「私」は国文学部の大学生で、かなりの読書家で、落語や観劇が趣味。作家名や書名、落語の噺、小さな蘊蓄をいろいろひとり語ったりするところが、こしゃくなのだけれど頼もしい。こういう子は個人的に好きです。推理はかなり飛躍を感じるものもあるんだけど…(「胡桃の中の鳥」とか)、だいたいは、見落としがちな状況描写の中にあるヒントに、円紫さんが気付いて解決する。いや、解決というか推論を導いて話して終わるので、答え合わせがあるわけではない。犯人のいる「事件」ではなく、日常耳にした「ちょっと変なこと」が「問題」なので。この一冊で5編だけど、この調子でシリーズを書いているというのは、ネタ探しが大変そうだ。