記憶の絵/森茉莉

ISBN:4480025987
一枚一枚記憶をめくっては描き留めた絵のような、短い短い随筆集。つらつらと話しかけるように綴られる。森茉莉さんという方は、なんかこう、想像ではもっと気取った、貴族趣味の、きれいきれいな女性のイメージだったけれど、これを読んでるとかなりワガママお嬢さんなことがわかる。しかし憎めない感じは満載。少しずれるけれど、百鬼園先生を思い出してしまった。些細なことにこだわり過ぎて周りに迷惑をかけたり、小さなことで怒り狂ったり、約束を守らなかったり、身近にこんな人がいたらきっと振り回されて困ってしまいそうなんだけど、人間が魅力的過ぎるので、もう困った顔しながら喜んで振り回されてしまいそうな。
それはそれとして、古く美しい日本語や、着物の描写なんかが素晴らしいのはさすが。父と出かけた子供時代のお洋服とか、想像するだけで顔がにやけます。新婚時代の巴里も素晴らしいんだけど。例:白い羅紗の、広い鍔がたわんだようにうねうねした、クラウンの平たい、へりに橄欖色のびろうどをめぐらし、クラウンを取り巻いた幅広のリボンが鍔を通して顎の下で大きく花のように結ばれている帽子と、これも白の毛皮の、マッフ付きの襟まき… とか。(橄欖色:オリーブ色)
あといつかどこかで読んだ記憶があった「鴎外が葬式饅頭をごはんに載っけてお茶かけて食べるのを好んだ」という話が出てきて。あ、本当だったのか、と思いました。