翼はいつまでも/川上健一

翼はいつまでも (集英社文庫)
中学生主人公もの、というわけでまず最近読んだ重松清を思い出しました。大人が子供を書いていて嘘っぽくないところは似たイメージ。しかし「ナイフ」は現代・都会だけれどこちらは十和田市の中学生・ビートルズが不良の音楽だった時代。主人公の友人が力石と輪島、って始まりに、あれ、これふざけた話なのかと思ったけれど、そんなことはなかった。先生や親への不信感だとか友達だとか、とにかくもう「こっぱずかしい」気持ちが甦って、そしてまたやるせない事件も起こって、あいたた、また胸が痛んでしんどくなる系か?と思ったけれど、二章が打って変わって清々しくてすっきり。ぐんぐん成長する主人公神山くんが気持ちよかった。
すごく好きな小説、という感じではなかったのだけれど、実は一日で読んでしまった。違うか、「好み」じゃないのに「好き」な小説だったという感じかも。止まらなかった。たぶん重松清よりも、こっちの方が「ワタシの中学生時代」に近い。もちろん二章の十和田湖のような思い出なんか全然ないのだけど。一章も、痛いけれどつらくはなかった。具体的な事件を思い出しはしなかったけど、ただ中学校の制服のテカってたのとか、夏休みの空気とか、なんかそういうのが視界を横切ったような気がします。その気持ちが珍しくイヤじゃなかった。角田光代の解説がそのへんの気持ちを代弁してくれてました。
というわけで、最近ワタシの周りで重松清を薦めてくれた皆さんには薦めてみたい一冊でした。実はこれは、ある人に連れて行って頂いた素敵なお店をやっている方のブログで薦められてた一冊で(回りくどいな)。その方は『「この小説が好きか嫌いかでその人を判断する」という、私にとってのリトマス試験紙のような本です。』なのだとか。ワタシにとってのそういう一冊はナンだろう、と考えてみています。