ある「小倉日記」伝/松本清張
ISBN:4101109028
芥川賞受賞の表題作含めた短編集。松本清張は推理小説と時代小説と現代小説?を書いている、らしいのですが勿論推理小説しか読んだことがなく。昨日の浅田次郎読本の中で、「(最近の)直木賞作家が芥川賞について語る」みたいな鼎談が載っていて、浅田次郎と出久根達郎と林真理子がいろいろ喋ってたのですが、その中で紹介されていた中でこれが一番気になったのです。
表題作は面白かった。森鴎外が九州・小倉にいた頃の「小倉日記」は長らく行方不明になっていたそうですが、その間の鴎外の動向を探ろうとするある青年を追う短編。随分と冷めた目で語られてる印象。推理小説のときの文章と別に変わってないのだろうけど。他の短編も、そんな感じ。特に繰り返し同じ主題が用いられる、不遇の考古学者に関するいくつかの話しは、思い入れ深そうな。学問の世界の学閥、閨閥、野心、嫉妬、なんてのがいやらしくて、象牙の塔を気取っている研究者の端っこの端っこにいる身としては、ちょっとため息。他自伝的短編なども収録。全体的に重ためです。表題作の他だと「火の記憶」がよかった。