手鎖心中/井上ひさし

初めて読んだ井上ひさしはしっかり覚えている。中3の12月にひどい虫垂炎で入院したとき(期末試験を受けられず、誕生日は病院で迎えた)、母が数冊差し入れてくれたものの中にあった。なんだこれ、と思ったけれど、面白かった記憶がある。
今回のこれは江戸時代舞台の短編ふたつ。表題「手鎖心中」は絵草紙作家になりたいひとたちのドタバタ。喜劇なのだけれど、話があっち行ってこっち行って、途中でオチが読めたかな、と思ったら更にふたひねりくらい。軽くて楽しめた。
もう1編「江戸の夕立ち」。ちょうど授業で江戸の大店の話なんぞするために、日本橋の資料をひっくり返していた時期に読んだので、最初の夕立ち避けて越後屋に駆け込むなんてくだりはもう絵を描いたように勝手に情景が浮かんで面白かった。話は江戸を離れて東北まで展開して、いつ江戸に帰るのかと思えばなかなか遠くて、最後まで引っ張って…そして時代が変わるこの展開。うまいよなあ。軽やかに軽やかに描かれているけれど、時代背景、社会情勢もきちんと細かに描き込んで、うまーく回している感じ。
久しぶりに読んだけれど、にやりと楽しめた。変な言い方かもだけれど、安心して笑える。

新装版 手鎖心中 (文春文庫)

新装版 手鎖心中 (文春文庫)