無事、これ名馬/宇江佐真理

町火消し「は組」の頭、吉蔵と、その妻お春、娘お栄、娘婿で「は組」の纏持ち由五郎。その家庭に弟子入り志願する武家の息子太郎左衛門が、幼子から青年になるまでの吉蔵一家とのつきあいや、人間模様を綴る一冊短編読み切り。
お栄の想い人であった幼なじみの金次郎との、煮え切らないというかどうしようもない関係であったり、知り合いのおばあさんの惚け問題であったり、妾となった旧友だったり…俗っぽい要素を多分に織り込んでリアルに描きながら、太郎左衛門の部分だけは、急にかわいらしくなる。宇江佐真理が自分の息子を重ね合わせたという太郎左衛門の、流されない、汚されない、飄々と無欲で、しかしきちんと生きている様子…「無事、これ名馬」は本当かもね、と話の流れが素直に入ってくる一冊。

無事、これ名馬 (新潮文庫)

無事、これ名馬 (新潮文庫)