水中都市・デンドロカカリヤ/安部公房

安部公房短編集。特に理由もなく、おどろおどろしい魚の装丁が気になって、衝動買い。…と思ったら、装画は安部真知。奥さまだったのですね。そう思っていま家にある安部公房を見直してみたら、新潮文庫の何冊かは安部真知の絵でした。そうだったのかー。無知でした。
おどろおどろしい魚は、おそらく「水中都市」の絵。

第一おれは、自分をそう信用してもいない。ショウチュウを飲む人間なんて、原則的に信用すべきでないとさえ思っている。ショウチュウを飲みすぎると、人間は必らず魚類に変化するんだ。現におれのおやじも、おれの見ている前で魚になった。

という冒頭の一節で、なんかこうぐっとつかまれ、引き込まれたわけですが、解説でドナルド・キーン氏もここを引用していて、うふふと思う。独特のユーモア。救いは全然なかったりもするのだけど(そしてそういうのは普通の作家ではあまり好きではない筈なのだけれど)、その世界にどっぷり浸かれて、心地よい。
表題のもうひとつ、「デンドロカカリヤ」は、人間が変化した植物の名前です。一番好きだったのは「手」かな。「手」と「詩人の生涯」は、外国文学を翻訳したかのような空気を感じましたよ。不思議に。

水中都市・デンドロカカリヤ (新潮文庫)

水中都市・デンドロカカリヤ (新潮文庫)