湯ぶねに落ちた猫/吉行理恵

表紙イラストと解説が浅生テルミン吉行理恵吉行淳之介吉行和子の妹。吉行エイスケあぐりの娘。淳之介も和子もエイスケもあぐりも知ってましたが、理恵さんは知りませんでした。勉強不足。2006年に66歳で亡くなっている。「湯ぶねに落ちた猫」は亡くなったあとに編まれた作品集。理恵さんは猫が好きで、生涯、何匹かの猫と暮らし、独身で過ごした。そんな生活を綴ったエッセイだったり、猫と暮らす女性を題材とした短編小説だったり(芥川賞受賞作『小さな貴婦人』も収録)が収められてる。
「雲」と名付けられたグレーの猫が、一番深く愛した猫であった模様。人間とはうまくつきあえず…ほどよい距離感を掴めず、戸惑い、落ち込んでしまう理恵さんは、猫といるときが最もくつろげるし、猫のこともわかるという。べたべたして、自分の子供のように可愛がるなんてことはせず、淡々と、猫とつきあい、暮らしている様子がリアル。兄淳之介の話、姉和子の話、母あぐりの話が猫に次いで語られる。生き方が、なんとなく不器用で、うつむき気味な空気を感じる文体なのだけれど、猫への気持ちは優しく深く、静かな印象。
この文章は誰かを思い出させる…と悩んでいたのですが、bossa nova歌手、東輝美さんの文章と似ているように思いました。
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湯ぶねに落ちた猫 (ちくま文庫)

湯ぶねに落ちた猫 (ちくま文庫)