水と水が出会うところ/レイモンド・カーヴァー 訳:村上春樹

村上春樹翻訳ライブラリーの新刊だ。レイモンド・カーヴァーだ!と、買って、積んでおかれてた一冊。
あとで帯を見たらちゃんと書いてあったけれど、短編集ではなくて詩集でした。中見なかったんだなー。というわけでカテゴリーは翻訳「小説」ではないけれど、まあ便宜上これで。
ものすごく短いものから、長くても数ページまで。詩としての美しさなんてものよりは(翻訳で読んでる時点でそれもアレだし)、ほんの数行並べた言葉に、際限なく広がる物語を感じてしまうのが、さすがだと思った。訳もあいまって、超短編の短編集みたいだったかも。
物語性は薄いけれど、好きだったのを一編。

Happiness
まだ朝は早いので、外はほとんど真っ暗。
僕はコーヒーと、そしていつも早朝に
心をよぎる、思いとも言えないようなものと一緒に
窓辺に立っている。
すると、少年とその友だちが
新聞を配達するために
道を歩いてくるのが見える。
セーターと帽子という格好、
一人の子供が肩から袋をかけている。
なにしろ、ものすごく幸福で
口もきけないくらいなのだ、その子供たちは。
できるものなら、腕を組みたいくらいじゃないかな
と僕は思う。
朝はまだこんなに早くて、
おまけに肩を並べて仕事をしているのだ。
二人はゆっくりと、やってくる。
空は光に染まっていく。
海の上にはまだ白い月がかかってはいるけれど。
この美しさには、死や野心や、いや
愛だって、しばしのあいだは
つけこむ余地がない。
ハッピネス。それは予想もしないときに
やってくるものだ。そして早朝の会話に
語られたあとでも、それはまだ続いている、ほんとに。

水と水とが出会うところ (村上春樹翻訳ライブラリー)

水と水とが出会うところ (村上春樹翻訳ライブラリー)