きみのためのバラ/池澤夏樹

昨年春に出た短編集。文庫化待つつもりだったのに、つい手にとってしまいました。するする読めてしまい、なんだか勿体なくなって途中何度か休憩しながら読了。舞台は順に東京、バリ、沖縄、ブラジル、ヘルシンキ、パリ、カナダ、メキシコ。主人公の性別も年齢も、人称もそれぞれ違って、でも品があって淡く静かな文体は一貫。最初の東京の話は、ビアバーでひとりで読んでいたもので、すっかりはまりこみました。デザート頼めばよかったかな(自意識過剰!)。好きだったのはヘルシンキの話とカナダの話。ソリで遊ぶ子供たちだとか、床に散らばるコーヒー豆だとか、情景が映像的に浮かぶ、その絵の色合いが特に好みだった感じ。気持ちよい一冊でした。
帯には「永遠に消えない人生の一瞬。恩寵のような邂逅−−−。  世界の片隅でひっそりと起こる出会いと別れを、美しい八つの物語に結晶させた、十二年ぶり、待望の傑作短編集」そして白地に青いバラの装丁。どうかな。悪くないのだけど、なんとなく、池澤夏樹を既によく知っていて、好きだという読者向けのつくりのような気がちょっとだけしました。それ以外の人には違う受け取られ方をしそうな。それでいいのかもしれないけれど。

きみのためのバラ

きみのためのバラ