底のない袋/青木玉

底のない袋 (講談社文庫)
論文から無事解放されました。ここ数日、地に足着いてません…。
本屋でごそごそ買い込んだ中からまず読み終えたのはこれ。青木玉さんのエッセイ。母である幸田文も大好きな作家なのですが、その一人娘にあたる玉さんの文章もとても好んでおります。
年配の、きちんと生きてきた女性の、おそらく等身大の、言葉。説教じみたところなんて微塵もなくて、暖かくて真摯で飾らない文章が、本当に気持ちよいのです。
「言葉の周辺」という一編は、言葉というものへの日常の接し方について、来し方について、行く先について、決して今を嘆くわけでなく、愛情を持って語っている。

むかしの人は夜、寝しなに、
「寝るぞ根太、頼むぞ垂木、梁、柱、なにごと有れば起せ屋の棟」
 と家中の要所要所に我が身を守れと言葉をかけて横になる慣わしを持つ人があったそうだ。
「言霊の幸う(さきわう)国」に住んで言葉がなくては、我々の生活は成り立たない。・・・

こんなくだりも、こちらは建築を学ぶ身としての興味深さもありながら、とても柔らかいたとえが引かれていて、なんというか、居心地のよい文章なのだよな。逆立ちしてもまねできませんが、憧れです。