父の詫び状/向田邦子

新装版 父の詫び状 (文春文庫)
誕生日にいただいた本その2。向田邦子のエッセイは初めて。小説は数冊読んだけれど、ドラマの脚本家という職業柄なのか、良くも悪くもあざとさみたいなものが気になっていたのと、好みよりは少々湿度が高くて、それほど熱心な読者ではなかった。で、エッセイですが、これは面白かったです。ありがとう>minさん。
亭主関白で短気で身勝手だった父親との思い出。戦前戦中の、転校の連続だった学生時代。戦後の、仕事を始め、家を出てからの思い。48歳の向田邦子が綴る20編以上の随想は、淡々と始まってみるものの、途中でどんどん思いついた方向に展開していって、あっちこっちに話が飛ぶ。思うままに筆を走らせているのだろなあ、と感じたけれど、全部計算ずくなのかとも思う。読んでいると、独立心旺盛で、大らかだけどちょっと頑固でさっぱりとした女性像が思い浮かぶ。幾つか知っている写真からは、涼やかな目元の聡明そうな、猫好きなひとのイメージ。今のわたしよりだいぶ年上ではあるけれど、こんな女性が身近にいたら、友人になりたかったと思う。