幻の声―髪結い伊三次捕物余話/宇江佐真理

幻の声―髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)
「江戸」っていうカテゴリを作ろうか悩むな。時代小説です。鬼平は「火付盗賊改」ですが、こちらは共存していた町奉行の方、八丁堀の同心不破に使われる髪結い伊三次が主人公の捕物帖。髪結い、てのは美容師さんみたいなもんですな。伊三次は流しの髪結いで、あちこちの大店なんかに出入りもしていたり。文吉というおきゃんな深川芸者の恋人がいて。上司の不破がいて。人間がとてもよく描かれていて、気持ちの良い短編集。江戸風俗の描写も嫌みなく、嘘っぽくなく、いい感じ。うちの両親おすすめのシリーズなのですが、時代小説ファンではなくとも、物語展開のうまさに楽しめそうです。
ほろりと来たのは、幼なじみの畳職人のおっかさんが織った畳表がお屋敷で使われているのを、おっかさんにひとめ見せたい「備後表」と、伊三次が文吉と所帯を持つつもりでこさえた大金を盗まれてしまう「星の降る夜」。ああでも他の3編もよかった。ハズレがないのはすごいな。