出口のない海/横山秀夫

出口のない海 (講談社文庫)
一ヶ月も空いてしまった!この間、ほんとに殆ど読書なし。あ、専門書はめくっていますが。で、横山秀夫
先月映画が封切られたのかな?でも、あまり事前情報なく読みました。戦争の話。海軍の、特攻兵器・回天の話。そうか、「出口のない海」っていうのは、そのままの意味だったのか…という。主人公ははたちの大学生で、野球部のエース「だった」男。甲子園の優勝投手だったけれど、肘をこわし、リハビリに3年。最後のシーズン、なんとか、もう一度まともに試合に出たい、そんなときに戦争は激しくなり、大学生の徴兵猶予はなくなる。学徒動員。幼なじみとの間に芽生える淡い恋心。出征前の、仲間達との試合のシーンはよかった。とても。ここが一番泣けたかも。
最初と最後に現代の描写。間で、追想的に、帰らなかった主人公「並木」が語られる。どろどろの悲惨さや、苦しさみたいなものよりも、ひとりの、野球を愛していた青年が戦争に参加しなければならない戸惑いと苦悩と、自分を納得させるための理屈、という思考の筋道が辿られる。きっと、こういう青年もいたのだろうと思う。戦争反対と叫ぶのではなく、愛国心もあり、真面目で、優しく、でも、戸惑っている。野球がしたかっただけだったのに。速球はもう投げられなくても、それを超えた魔球を完成させれば…。
いい小説だ。並木という青年は魅力的で、きちんと迷ってるところが、リアルに読める。野球好きだしな。戦争の痛ましさもばからしさもわかる。でも、横山秀夫という作家が書いた魅力がちょっと薄かったかな。もっと、なんというかこう圧倒的なものを書ける方だと思ってるんだけどな。