もの思う葦/太宰治

もの思う葦 (新潮文庫)
太宰治の随筆というのは全集以外にはあまり取り上げられていないそうで、これは解説をしている奥野健雄という人が編んだ文庫随筆集。さまざまな媒体に発表したこまかい随筆や、井伏鱒二の全集発刊に寄せた編者としての文章、そして戦後の「文壇」の連中に激しく食ってかかるような連載…など幾つかの章に分けて収録されている。
そもそも太宰は、小説を書くことに専心し、日常の些末なことを綴る随筆的・感想文的なものは書きたがらなかったようだ。そういう姿勢から、私小説的なものも嫌っていた気配。日本文学の作家の誰と誰が仲が良くて、誰が誰を好きで…なんて、あまりわかってなかったけれど、とりあえず、太宰は井伏鱒二がとても好きで、もちろん芥川も敬愛していて、川端康成はあまり好きではなく、志賀直哉は大嫌いだったっぽい。
井伏鱒二に「天才を実感させられた」として、

おれは、勉強しだいでは、谷崎潤一郎には成れるけれども、井伏鱒二には成れない。

なんてことを言ったりもしています。偉そうですが、気持ちいいね。で、その井伏鱒二が、谷崎潤一郎に褒められて喜んでいるのを見て「私には不満だった」なんてぼやいています。