イン・ザ・プール/奥田英朗

イン・ザ・プール (文春文庫)
映画の予告編を見て興味を持ったときに、何編か立ち読みしていた本の文庫を購入。友人(id:maschineさん)がオモシロイと云ってたのもあり。
精神科医伊良部のもとを訪れるさまざまな患者ごとに一編ずつの短編集。患者側の一人称で書かれるので、語り手は変わりつつ、伊良部という無茶苦茶な医者と、看護婦マユミが描かれる。一旦映像見てしまったので、伊良部は松尾スズキの顔しか浮かばなくなってしまってたのですが、通して読むと、もっと太ってたるたるしている人間ではあるなあ…伊集院光とかが濃い演技をしてくれたら近いかしらん。いやでも、松尾スズキを持ってきたセンスがすばらしいかも(独り言)。
注射フェチでマザコンで非常識な伊良部が患者を振り回す様が笑いを誘い、それぞれなんとなくめでたしめでたし、と終わるのですが、患者本人たちは、それなりに苦しんだりいろいろ失ったりしてる。ああしてたら、こうしてたら、そうなった、どうなった、そんな気がする、嫌われるのが怖い、ひとりになるのが怖い。「ある程度まで」というのが出来なくなって、全部気にしだして、本気で捉え始めたら、もう戻れなくなるのだろうか。だいたいの患者(モデルと高校生以外か)は表面上「まじめ」で「優しい」人間として描かれており、ちょっと皮肉と悲哀も感じる。
伊良部は、そんなこと気にしたってしょうがないじゃーん、心配しても何にもならないじゃーん、と繰り返す。ある程度まで、それが有効なんだろうな。