文章読本/谷崎潤一郎
タニザキが語る文章論。小説に限った話ではなく、日本語で文章を書くことに主眼を置いて、さまざまな引用(源氏物語、更級日記、城の崎にて、即興詩人etc.)を交えながら上達法や用語、調子、文体、体裁、品格そして含蓄…と項目を取り上げていく。丁寧な口語体(この本で云う「兵語体」)で諭すように書かれ、自分の考えや分類の方法をきちんと説明しています。
和文のやさしさを伝える流麗な調子の作家として、泉鏡花、上田敏、鈴木三重吉、里見?、久保田万太郎、宇野浩二、佐藤春夫などを挙げ、漢文のカッチリした味の作家としては夏目漱石、志賀直哉、菊池寛、直木三十五等を紹介したり、鴎外の言葉の選定には日本語学者的こだわりが見られるという指摘など、タニザキの目で見た作家論的部分もありまして、おもしろかったです。あ、でも小説の書き方読本ではありません、あくまでも文章読本。
昭和9年に書かれたものということで、候文に関するくだりなど、そりゃもう使わないよ、というのももちろんある一方、外来語や造語の取り入れ方についてなんかは70年たったって変わりないのだなあ、と思いました。
文章読本、というタイトルではほかに三島由紀夫、中条省平、丸谷才一のものなんかが巻末に紹介されていてました。中公文庫。この版の解説は吉行淳之介。