雪屋のロッスさん/いしいしんじ

雪屋のロッスさん (ダ・ヴィンチブックス)
いろいろな職業につく人やモノが主人公の短編が…いくつあるんだ?ええと30篇。「調律師のるみ子さん」だとか「床屋の国吉さん」だとかの、ある程度想像つく職から、表題作「雪屋のロッスさん」だったり「犬散歩のドギーさん」だったり謎めいたものまで、もしくは「旧街道のトマー」(道)、「ポリバケツの青木青兵」(バケツ)なんつーモノなども主役に。「コックの宮川さん」が食材達に優しく語りかける描写がちょっとスキだ。

たとえば、ふるえるにんじんを相手に、
「痛くないって。うちの包丁はもう、当たったとおもったとたん、切れているからね」
豚のこま切れに手をやり、
「見たこともない脂だ。消化されたあとも、きみの風味はえんえんと残るだろう」

あー。これだけだと、子供向けファンタジーに読めてしまうだろうか。そういうのとはまた違うのだけど。

いしい節全開で紡がれていく物語はひとつひとつが短すぎるのですが、いつもよりいろんなことを試そうとしているかのような感じでした。「白の鳥と黒の鳥」も短編集だったけれど、あっちより、詰め込まれている要素が色とりどり。良かった。良かったけど、なんかまたがっつり、この人の長編を読みたくなります。