マシアス・ギリの失脚/池澤夏樹

マシアス・ギリの失脚 (新潮文庫)
読むのに休み休みで3週間くらいかかってしまった。それなりに分厚い文庫だけれど、それ以上に中身が広くて濃い小説でした。日本というもうひとつの島国との深い関わりを持つ南洋の島国ナビダードの大統領マシアス・ギリのある意味壮大な一代記ではあるのだけれど、島に秘められた神秘的な力がさまざまな出来事を引き起こし、日本からの慰霊団を乗せたバスは消え、8年に一度の祭が行われ…。盛りだくさん、というわけでもないんだ。描写される南洋の空気の濃さや娼館の艶めかしい雰囲気がますます「濃い」感じを与えるのかな。飽きさせないけど引き込まないというか。淡々と進むんだよなあ。小さな島国が抱える国際的問題や開発の利権問題やなんかは、なるほどリアルを漂わせつつ、200年前に死んだ若者の亡霊にギリは話しかけたりもする。そしてところどころ差し挟まれる、消えたバスについての報告書・バスリポートがいきなり滑稽だったりもする。こんなに振れ幅が大きいと、読んでる方は振り回されちゃって冷めたりするはずが、それもなかったんだよな…。難しい。面白かった。しかしなんとなく人に手放しに薦めにくい。