花を運ぶ妹/池澤夏樹

花を運ぶ妹
奇数章は妹カヲルの一人称。偶数章は兄哲郎の独白形式。交互に語られて物語は進む。筋書きは結構ディープだ。ヘロイン所持で異国の地バリで捕まった画家の兄は、現地警察の実績主義のためのフレームアップ(捏造して事件を大袈裟にしている)によって、思いの外の重罪とされ、最高刑の恐怖もちらつく。それを知った妹は、兄を助けるために行動を起こす。ヨーロッパ圏で生活をしてきた妹の、アジア諸国への違和感・反感であったり、兄の弱さやヘロイン中毒の描写の恐ろしさだったり、深くて重いのだけれど、読ませる。
結末話しちゃうと面白くないのでここまで。でもカヲルの、哲郎=てっちの、それぞれのさまざまなエピソードが、来し方が、絡み合って求め合って進んでいく小説としての面白さにしっかりはまってしまった。ただ兄と妹が絡み合い求め合うかというとそうでもなくて。それぞれは別個に存在し、別個に生き、違う道の上に立ち。ただ「兄と妹」であった。という感じ。ああうまく言えないな。毎日出版文化賞受賞作だそうです。