川の深さは/福井晴敏

川の深さは (講談社文庫)
TwelveY.O.の前段だという江戸川乱歩賞ノミネート作品。著者の発表処女作にしてぐいぐい引き込む筆力と展開に圧倒される。が。がー…。ローレライ→イージス→Twelve→これ、と遡る変な読み方をしてしまったのが悪いのだろうけれど、人の描ききれなさ、もしくはステレオタイプ具合や、繰り返される同じテーマにちょっと食傷気味。逆の順番で読んだ方がよかったな。
防衛庁の暗部、アメリカ、北朝鮮も絡む陰謀、などの同じテーマが繰り返されるのは、それが一番伝えたいことなのだろうからよい。でもいつも、不器用だけど熱く強い男と、不幸な生い立ちで組織の一員となり、完璧にスパイとして「教育」されたスーパー少年やら少女やら、そしてまた男性主観で描かれるいい女…、という出てくる人物一緒やん!感がなあ。惜しいような。結局勢いに押されて読み進めてしまうのですが。他の色味のものも読んでみたい、と思わせる筆力なのですが。そういう意味では「ローレライ」の4巻途中まで、というのが今までの一番かな。「イージス」の方が完成度は高そうだけど。
Twelve〜よりは面白かったので、野沢尚と競らなければ、これが乱歩賞でよかったのだろうなあ。