アール・デコの建築/吉田鋼市

アール・デコの建築―合理性と官能性の造形 (中公新書)
珍しく建築書が続いてしまった(珍しくていいのか?)。著者は横国大の建築史の先生で、よく横浜の近代建築関係で目にするお名前でございます。ワタクシは面識がないのですが。そんな先生のご専門、アール・デコの建築に関する広くて深い一冊。まず最初に、その名が付いたのは1960年代後半だという「アール・デコ」の定義を狭義と広義でされて、それからフランスを中心に世界各国の作品と、日本での位置付けを説明、最後に現代のアール・デコの捉え方と保存などについて語ります。まあ中段は写真がたくさんのカタログみたいなものなので(新書なので写真はもちろん白黒。残念)。
1章のアール・デコとはそもそもなんだろう?というのと、5章のアール・デコに限らない「近代建築」の保存に関するわかりやすい文章がとてもよかったです。伝統とモダニズムを繋ぐ存在としてアール・デコを捉え、その特徴を「幾何学的に単純化されたクラシックの要素を受け継ぎつつ、様々な近代(建築)運動の成果と近代の技術的所産を採り入れ」たものと整理して、アール・ヌーヴォーはもちろんセセッションなんかとの関係も説明してくれて。不勉強建築史屋にとってはありがたい一冊です。そして5章の、RC建築の保存の難しさや、方法、オーセンティシティの話なども興味のあるところでした。